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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)619号 決定 1983年1月19日

抗告人 株式会社日本ダイナースクラブ

右代表者代表取締役 徳山尚典

右訴訟代理人弁護士 橋本順

同 早乙女芳司

相手方 能登山己貴雄

相手方 高橋祥子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

二  よって按ずるに、当事者の合意によって定まる裁判所の管轄には、合意した裁判所にのみ管轄を限定する専属的合意管轄と既存の管轄を排除することなく、合意した裁判所の管轄との併存を認める競合的合意管轄の両者があり、具体的合意がその何れに属するかは当該合意の解釈の問題となるところ、競合する法定管轄裁判所のうち一つを特定して管轄裁判所とすることを合意し、そのほかの管轄を排除することが明白である等の特段の事情のないかぎり、当該合意は後者、すなわち競合的合意管轄を定めたものと解するのが相当である。

本件訴訟は、抗告人(原告)は、いわゆるクレジット会社であり、相手方は抗告人の個人会員規約を承認して入会を申込み、抗告人がこれを認めて会員証(クレジットカード)を交付して個人会員となったものであるところ、相手方は抗告人から金銭の貸付を受けたほか抗告人の加盟店において物品等を購入するにあたり、抗告人発行のクレジットカードを呈示して信用供与を受け、抗告人は右加盟店から相手方に対する債権を譲り受けたので、右貸金及び譲受債権の支払いを求めるという金銭請求事件である。そして、抗告人提出の《証拠省略》によれば、抗告人のクラブ会員規約第二一条には「本規約に関することがらで、会員とダイナース(抗告人のこと)との間で訴訟の必要が生じた場合はダイナース本支店所在地を管轄する裁判所を合意管轄裁判所とします」という条項があるけれども前記説示に照らし、右条項のみによっては未だ法定の管轄裁判所を排除したものとは認めがたいので、本件が原審の専属管轄に属するものということはできない。

そうであるばかりでなく、本件訴訟においては相手方は抗告人主張の前記クラブ会員契約の締結及びクレジットカード等の利用の事実を否認しており、又、本件の証拠方法の多くが札幌市内に存するものと推認できるのであるから、以上の諸点を総合すれば、本件を民事訴訟法第三一条に基づき札幌地方裁判所に移送した原決定は相当であって、本件抗告は理由がない。

三  よって、本件抗告を棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 武藤春光 安部剛)

<以下省略>

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